韓国・北漢山(ぷっかんさん)のんびりハイク

2003年6月15日〜6月16日

アウトドア オールラウンダーズ 大見 三恵

1. ロッテホテル

「おはようございます、今から山へ行くのですか?」チェックアウトを済ませ、ホテルを出ようとする私と夫にベルボーイが笑顔で尋ねる。
ここは韓国ソウルにあるロッテホテル。これまで何度も韓国に遊びに来ている私たち二人であるが、いつも一泊二人で3千円〜4千円のオンドル部屋式韓国旅館専門だった。そんな私たちが、今回この泣く子も黙るという?一流ホテルに宿泊することにしたのには少しだけ理由がある。1つは今回1泊2日の旅なので思い切って贅沢してみようということ、2つ目は現在創業30周年のキャンペーンの最中で通常の半値以下で宿泊できること、そして最後はそれまでに周囲で生じていたゴタゴタをすべて忘れるためだ。ここ数ヶ月の間にいろんな事があり、それまで大切に思っていたものから去ることとなった。古いものを捨て、何も無いところに全く新しいものを作り出すという作業は楽しいけれどもその分苦労もつきもの、特に中心的にやってきた夫には少しリフレッシュが必要だ。
この時期日本人観光客も少なく、スーツにブランドもののバッグを持ったビジネス客がかなりを占める豪華なロッテホテルのロビーを、夫は短パン、私はパジャマのようなジャージをはいて、ザックに山靴姿で歩く私たち二人ははっきり言って「浮いている」。なんとなく落ち着かなくて、「私たちこれから山に行くんです、だからこんな格好しているんですよ」と目で訴えていたのだが、これにこのベルボーイが気づいてくれた。「ああ、北漢山ですか、私も毎度行きますよ。少し危ないので気をつけて下さいね。行ってらっしゃい!」ペラペラの日本語で送り出してくれた。

2. あの有名な岩場のある山で○ッシーに会う?

北漢山はソウルから地下鉄で30分ほど行った水諭(すゆ)と言う町にある。韓国クライマーご用達のインスボンがある山域と言えばわかりやすいだろうか。駅の近くで「ロッテリア」に飛び込み、手っ取り早く朝食を済ませた。そういえば昨日はロッテワールドで遊んでいたので、これで韓国ロッテ御三家?見事制覇である。
タクシーに乗って約10分ほどで到着したお寺の駐車場が今日の入山口だ。登り始めたのは11時、この日は月曜日であるにもかかわらず、実に大勢の人が次から次へと登り始めている。日本で言えば、ちょうど日曜日の六甲山の様な賑わいだ。


登山者は若い人が多く、大半がジーパンにウエストポーチのような街着で歩いている。「しんどい、しんどい」と言いながらも大変な健脚ぶりでひょいひょい登って行く。一方、私たちは樹林帯の中をマイペースで進む。道中シマリスが2匹遊んでいる所を見かけた。韓国の山は今回4回目になるのだがシマリス遭遇率100%、その愛らしい姿を見ていると疲れも吹き飛ぶ。樹林帯の中を40分程行くと視界が広がり、右手に大きな岩がそびえ立った。インスボンだ。白くのっぺりとした岩で、何よりもそのスケールの大きさが恐ろしい。昨年ここでクライミングを楽しんだ夫がいろいろ解説してくれていると、「あなた達ロッククライマー?」と一人の男性が話しかけてきた。浅黒い顔立ち、そして細身の体にタンクトップのそのファッション、どことなく大阪労山中級登山学校の某校長に「に、似ている」。どうやら彼自身がクライマーであること、隣で微笑む優しそうな女性もクライマーであることをなんとも聞き取りにくい英語で話してくれた。
再び足を進める。途中キムチとお酒の強烈な臭いをプンプンさせ、「うっ、うっ」とうなりながら登っているおっちゃんに道を譲った。酔っぱらいも古今東西共通事項、人類は皆兄弟である。そして、こういう人とは少し離れて歩くに限る。

3. 岩と歴史と大宴会

20分ほどで頂上直下の白雲山荘に到着した。山荘の外では入山口であった若者グループがキムチなどの食材を並べ、早くも宴会モードに入っている。私たちは山荘の売店でポカリスエットを買ったのだが、1本100円と日本の町中で買うより割安だった。
ここからこの山域の最高峰白雲台(ペグンデ・837m)頂上へ向かう階段を登り始めるとずっと奥の方まで城壁が続いているのが見える。ここはかつての城跡、今でこそ人気ハイキングコースであるが、歴史を遡れば結構血なまぐさい話もあったのかもしれない。そんなことを考えていると、やがて階段はなくなり益々の急登となる。杭や手すりがあるものの少し注意が必要だ。そして頂上では、ここでも大勢のハイカーがお弁当を広げ大宴会を繰り広げているのであった。どうやら彼らは山が好きというよりも、ワイワイ仲間うちで騒ぐのが好きなようだ。めいめい岩の上に座り込んで楽しげだが、見ているこちらは少しドキドキ。断崖絶壁ギリギリでも平気で美味しそうに食事をしているのだ。そう言えば去年、インスボン帰りの夫からこういう話を聞いた。インスボンのルートではヌンチャクをかける支点がほとんどないということ、少し簡単なピッチになると韓国クライマーはザイルを用いないで登っていること、また下山でも同様で、それ故、死亡事故も決して少なくないらしいということ。もちろん夫らはそれらのルートを、フレンズを用いて支点を作り、すべてのピッチにザイルを用いて登ったとのであるが、これは韓国ではあまりスマートな登りとされないようだ。安全性よりも男気(?)が優先されているのかもしれない。自然の中での人々の過ごし方を見ているとその国民性がよくわかる様な気がする。
下山はそのまま来た道を引き返すことにした。1時間ほどで登山口に到着し、タクシーの運転手さんに頼んで温泉まで連れていってもらった。バス停近くの温泉につかり、出てきたときには外は土砂降りの雨になっていた。
ソウルから比較的近く、登山者も多いため決して静寂を楽しむ山ではない。でもほんの少しでも異国の歴史を感じる事が出来、何より圧巻なのはインスボンで実際に岩登りをしているクライマーを眺めながら山歩きを楽しめることだろう。往復たった3時間程の山の割に、山頂直下の岩場が登りがいを演出し、結構面白い山だった。
帰国の前に途中下車した東大門の街の食堂で夫と共に焼き肉をつつきながら、たった今降りてきたばかりの山について語り合っていた。
ビールに焼き肉に山の話、最後まで贅沢な旅であった。

資料編  タクシー代 スユ(水諭)-トソンサ(道洗寺) 5000ウォン
              トソンサ(道洗寺)-ウイドン<4000ウォンで入れる温泉があります> 3000ウォン

以上